CHAPTER 02 / 06
生豆の温水洗浄と吸水処理
本章では、焙煎の前処理として実施する生豆の洗浄および温水浸漬(吸水)手順について解説します。
位置づけ
本処理はマイクロ波焙煎における必須工程ではなく、任意のプロセスです。作業者の判断により実施の有無を選択できます。
ただし、本書に記載されている焙煎プロファイルおよびデータは、すべて本洗浄・吸水処理を行った状態を前提としています。
生豆洗浄のメリット・デメリット
メリット
- 衛生性の向上: 輸入・流通過程で付着した表面の埃や汚れを確実に除去できます。
- チャフ(薄皮)の低減: 洗浄によってチャフの大半をあらかじめ洗い流せるため、焙煎中の煙やチャフの焦げ付きが抑えられ、後片付けも容易になります。
- 欠点豆の検出性向上: 水に漬けることで、水面に浮く未熟豆やカビ豆などの欠点豆を目視で選別しやすくなります。
デメリット
- 可溶性成分の流出: 水に晒すことで、生豆に含まれる糖分や水溶性成分の一部が流出する可能性があります。
- 風味への影響: 洗浄を行わない場合と比較して、抽出液の質感や風味のキャラクターに変化が生じます。
本マニュアルでは洗浄の是非を断定しません。各自の目的や嗜好に応じて採否を判断してください。
生豆の洗浄・吸水手順
Step 1: プレ水洗い(汚れ落とし)
浄水を使い、10〜20秒程度軽くかき混ぜて表面の汚れを洗い流します。

Step 2: 50℃温水洗浄(チャフ除去・欠点豆選別)
50℃の温水に豆を入れ、米を研ぐ要領で豆同士を軽く擦り合わせてチャフを落とします。水面に浮いてきた欠点豆(未成熟豆や中身のない豆)はこの段階で取り除きます。
温水を交換しながらこの作業を2回行うと、チャフの大半が除去されます。


Step 3: 50℃蜂蜜・果糖水溶液への浸漬(30分間)
耐熱ガラス容器に水切りした生豆を入れ、蜂蜜15g、果糖20gを加えます。

生豆の高さの約2倍程度まで50℃の温水を注ぎます。

水面に浮いてくる未熟豆を適宜取り除き、そのまま30分間静置して吸水させます。
浮き豆の除去量は豆の品質によりますが、良質な豆であれば吸水後重量で5g以下、標準的なロットでも10g以下を目安とします。

Step 4: リンス(すすぎ)および容器装填
30分経過後、水溶液を廃棄し、流水で軽く生豆をすすいで表面に残った糖分を洗い流します。
水気を切った後、焙煎を行うホウケイ酸ガラス製シリンダーに移します。

浸水後の重量変化
乾燥生豆144gを使用した場合、30分の吸水後は180g〜200g程度に増加します。
吸水量は豆の密度や標高、精製方法によって異なります。一般に、高標高(標高1,900m以上など)で栽培された硬いナチュラル精製豆は吸水量が少なく、中・低標高のウォッシュド精製豆は吸水量が多くなる傾向があります。
吸水後の重量が200gを大幅に超えると、焙煎所要時間が著しく延びて作業効率が落ちるため、必要に応じて浸漬時間を調整してください。
補足事項
付録 1: チャフ除去による利点
洗浄および浸漬によって生豆外周のチャフの多くが脱落するため、焙煎完了後のチャフ飛散が大幅に減少し、庫内や作業スペースの清掃負荷を軽減できます。また、チャフの過熱による発火リスクも低減します。



付録 2: 蜂蜜・果糖添加の背景
浸漬液に果糖水溶液を用いる着想は、以下の学術論文に着想を得ています。
- Enhancing Robusta Coffee aroma by modifying flavour precursors in the green coffee bean
注記
上記論文はロブスタ種を対象とし、浸漬後に水分値11%前後まで再乾燥させる条件で検証されています。
本マニュアルはアラビカ種を対象とし、再乾燥を行わずにそのまま焙煎工程へ進む独自の実践手法です。
果糖の添加は、30分の浸漬で流出する糖分を補うことを目的としています。蜂蜜の添加は独自プロファイルであり、アミノ酸補給を意図した経験則に基づく設定です。これらは焙煎工程の加熱によって消費されるため、抽出したコーヒーに直接甘味が残るわけではありません。
生豆144gに対し「蜂蜜15g、果糖20g」という分量は実績値に基づく目安ですので、各自の検証に応じて調整してください。
付録 3: 食塩添加に関する検証結果
浸漬液に食塩(NaCl)を添加する検証では、以下の結果が得られています。
- 生豆の吸水量が明確に低下する(再現性あり)。
- 電解質による導電損失の増加(誘電損率の上昇)により加熱効率の向上が期待されたが、実処理上、有意な焙煎時間の短縮やプロファイル改善は確認されなかった。
- 抽出液に塩味は感じられないが、焙煎プロセス上の特段のメリットも認められない。
以上の理由から、本手順では食塩は採用していません。